2014年3月31日月曜日

制震構造とは

(1)イントロ


平成25年度(2013年度)問50肢(3)は、
「制震構造は、制震ダンパーなどを設置し、揺れを制御する構造である。」
という問題でした。[答えはマル]

また、

平成25年度(2013年度)問50肢(2)は、
「免震構造は、建物の下部構造と上部構造との間に積層ゴムなどを設置し、揺れを減らす構造である。」
という問題でした。[答えはマル]

肢(3)の「揺れを制御する構造」も肢(2)の「揺れを減らす構造」も、日本語としては非常に区別しにくいですね。

そこで私が、これから解説して行きますが、せっかくなので、宅建合格を超えて皆さまに役に立つような記事にしたいです。

読んでみれば理由が分かると思いますが、以下の解説に共通するのキーワードを相殺(そうさい)にします。

(2)相殺とは


ここでは日常用語としての相殺を使います。

つまり、タイミングをずらせることで互いに差し引いて弱める、という意味で使います。

(3)味の相殺


料理を作っていて、酸味が強すぎたなと思ったとき、砂糖などの甘味を加えると、お互いの味が弱められます。酸っぱさが弱まり、甘さも目立ちません。

こういうのを、味の相殺効果と言います(食品学の用語)。

私たちの脳に伝達される酸味信号や甘味信号のタイミングをずらせることで、酸味と甘味を相殺しているからなんですね。

(4)音の相殺


私たちの耳に聞える音は、空気の振動です。
空気を押したり引いたりしている振動ですね。

地下鉄の中など、周囲の雑音が大きい状況下でノイズキャンセリング式のヘッドホンを使うと、聴きたい音楽には影響を与えずに、周囲の雑音だけを打ち消してくれます。

なぜそうなるかと言うと…

ノイズキャンセリング式ヘッドホンの外側にはマイクが付いていて、周囲の雑音を録音し、この雑音とは逆位相(ぎゃく・いそう)の信号(雑音が空気を押している時は引く信号・雑音が空気を引いている時は押す信号)を発生させ、振動のタイミングをずらせることで、聴きたい音楽と雑音とを相殺しているからなんです。

相殺効果の一種です。

(5)自動車振動の相殺


自動車には乗り心地を良くするために、スプリング(バネ)が付いてます。
でもスプリングだけだと、なかなか揺れが収まらず、車酔いする人が出てしまいます。

そこで、ショックアブソーバーという「早く揺れを制止させる」装置が付いています。
自動車のスプリングとショックアブソーバーの関係も、相殺効果の一種です。

スプリングはバネなので、ゆらゆらと振動します。
そこで、スプリングの振動のタイミングをずらせる装置(ショックアブソーバー)を付けることで、自動車全体の揺れを早く制止させることができるので、車酔いする人が減るというワケです。



(6)建物振動の相殺 = 制震構造


やっと制震構造にたどり着きました!(笑)

大地震の際は、なかなか揺れが収まらないことが多いです。
高層建築物ほど、この傾向が強いですね。

そこで、制震ダンパー等「早く揺れを制止させる」装置を建築物に設置する方法が考え出され、制震ダンパー等を設置した建築物を制震構造と言います。



制震ダンパー等
…地震の時に、建築物本体とタイミングがずれて振動する装置の総称。現在では、筋交い(すじかい)のように設置する形式や、上下の梁(はり)をつなぐような形式が多い。油圧式・粘弾性式などがある。

地震の揺れと制震ダンパー等の関係も、相殺効果の一種です。

大地震の際は、なかなか揺れが収まらないことが多いです。
そこで、地震の振動のタイミングをずらせる装置(制震ダンパー等)を付けることで、建築物全体の揺れを「早く制止させることができる」ので、建物の倒壊等を防げるというワケです。

(7)制震構造と免震構造の違い


制震構造は、揺れから免れようという発想はなく、揺れてしまったものは仕方ないので、相殺効果によって「早く揺れを制止させよう!」という技術です。

免震構造は、「免」という字が物語っているように、それ自体で、「揺れから免れよう!」という技術です。

建築物の足元(土台)を地面から切り離し、地面との間に積層ゴムと呼ばれる免震装置などを組み込んで地震の激しい揺れを受け流そうという発想が免震構造。
免震建物であれば、地震で生じる建物全体の揺れを3分の1~10分の1に低減できるとされてます。

(8)ついでに耐震構造


平成25年度(2013年度)問50肢(1)は、
「耐震構造は、建物の柱、はり、耐震壁などで剛性を高め、地震に対して十分耐えられるようにした構造である。」
という問題でした。[答えはマル]

耐震構造は、「耐」という字が物語っているように、建物自体が、「揺れに耐えよう!」という技術です。

建築物の基礎から上部構造までガッチリと地盤に固定して、地震の揺れに対して耐力(人間で言えば「体力・丈夫さ」)でこらえる構造です。

(9)地震に対抗したわが国の歴史


(イ)飛鳥時代から太平洋戦争に負けるまで

「柳に風」という言葉がありますね。
柳が風になびくように、柔らかく受け流すという意味です。

地震の激しい揺れを受け止め、柔らかく受け流すという発想(現在の制震構造・免震構造の発想)は、飛鳥時代に既に生まれていました。

その証拠の一つとして、日本独自の木造建築物である五重の塔は、地震による倒壊の記録が残っていません。
高い耐震性の理由にはさまざまな説がありますが、昔の日本人が、地震の激しい揺れを受け止め、柔らかく受け流すという発想に立っていたことは確かでしょう。

(ロ)今の建築基準法関連の基本条文

昭和25年に施行された今の建築基準法関連の基本条文は、建築基準法20条で、こんな条文です。

(構造耐力)
建築基準法第20条  

建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。
1号
高さが60メートルを超える建築物 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合するものであること。この場合において、その構造方法は、荷重及び外力によつて建築物の各部分に連続的に生ずる力及び変形を把握することその他の政令で定める基準に従つた構造計算によつて安全性が確かめられたものとして国土交通大臣の認定を受けたものであること。

2号以下省略

条文のタイトルが(構造耐力)となっていることからも分かるように、今の建築基準法関連では、地震に対抗する手段として「耐震構造」主義になってます。

「建物の柱、はり、耐震壁などで剛性を高め、地震に対して十分耐えられるようにしてね!」
でオシマイということ。

地震の激しい揺れを受け止め、柔らかく受け流すという発想(現在の制震構造・免震構造の発想)は、条文からは見えて来ません。

太平洋戦争に負けてからのGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の影響が大きいと思いますが、日本古来の「柳に風」から、耐力(人間で言えば「体力・丈夫さ」)でこらえる構造にいつの間にか変化してしまったのが、今の建築基準法関連です。

免震構造は、今から40年以上も前の1970年始めに、フランスで発明されました。
そして、フランスの原子力発電所(原子炉建屋)では40年以上も前から、ゴム板と鋼板を積層した免震装置が使われています。
それなのに、なぜかわが国では、福島の原発事故後も免震装置義務付けの話さえ聞こえてきません。現在建設中の最も新しい大間原発(原子炉建屋)ですら、免震構造は採用されませんでした。

最近一般住宅向けにも開発されてきた制震構造・免震構造は、法制化されているわけではなく、民間企業が任意でやっているに過ぎないのです。

(ハ)最近の情報 - 東京スカイツリー

前に、日本独自の木造建築物である五重の塔は、地震による倒壊の記録が残っていないと書きましたが、五重の塔で思い出すのは、東京スカイツリーです。

東京スカイツリーの施工者はスーパーゼネコンの大林組ですが、設計・監理者は日建設計です。

その日建設計さんは、1958年(昭和33年)に東京タワーの設計・監理も行った所ですが、そのすごい会社によって飛鳥時代の設計思想が蘇りました。下のリンク先をご覧下さい。
なお設計のプロの間では、地震以外の振動も制するという意味で、「制振」という字が使われることが多いです。



五重塔のような、制振構造(日建設計のサイト)


相殺(そうさい)を共通のキーワードとして、制震構造について長々と解説してきましたが、宅建合格を超えて皆さまに役に立って頂けたら幸いです。

2014年3月26日水曜日

駆け込みなんか、絶対にしないぜぇ~!

(1)


わが国最初の消費税が施行されたのが25年前。
平成元年4月1日の3パーセントが始まりでした。

17年前の平成9年4月1日に、5パーセントに増税されました。

そして、8パーセントに増税されるまで、今日を入れて6日になりましたね。

(2)


宅建倶楽部では、古いエアコンがいよいよ調子悪くなってきたので、買い替えます。

でも、3月中に買うなんてバカなことはしません。
駆け込みなんか、絶対にしないよ~です!

理由は簡単。
8パーセントに増税されてから買ったほうが、総支払額が安くなるに決まってるから…。

これは歴史が物語ってます。

平成元年4月1日の3パーセントが始まった後のほうが、その数カ月前より安く物が買えました。
あの頃はバブル経済真っ最中の好景気なのに、そうでした。

同じ事は、平成9年4月1日の5パーセント増税後にも言えました。
平成9年の時は今と同じで不況だったので、リバウンド効果で、その数カ月前より2~3割安く買えるものも続出しました。

(3)


私の場合、エアコンのような比較的高額な物に限らず、すべての物資について、駆け込みなんか絶対にしません。缶詰ひとつ、ティッシュ一箱でも今は買わないということ…。

世の中、
 ・ 増税前に買った方が得なモノ・サービス
 ・ 増税前に買っても得とは言えないモノ・サービス
を振り分けて、ご丁寧に教えてくれるサイトがありますが、私に言わせると、根拠薄弱で笑っちゃうものばかり…。

歴史を知ってるオヤジの財布のヒモは、そう簡単には緩まないのだ!

2014年3月19日水曜日

マッチングサイトの怖さ

(1)BtoB


マッチングサイト(matching sites)とは、供給可能者と需要希望者との間を「紹介(=媒介=仲介)する」サイトの事。

歴史的には、BtoB での紹介が始まりでした。
供給可能者も需要希望者も Business でやるので BtoB です。

宅建業者(Business)が、「この物件3,000万円だけど、どう?」と自社のホームページで同業他社(Business)向けに紹介すれば、 BtoB です。

(2)BtoC


やがてマッチングサイトは、BtoC が幅を利かすようになります。

宅建業者(Business)が、「この物件3,000万円だけど、お買いになりませんか?」と自社のホームページで一般消費者(Consumer)向けにきれいな写真などを付けて紹介すれば、 BtoC です。

(3)BtoC は人生を左右されることも


私がここ数年懸念していたのは、いわゆる婚活サイト。
男女の結婚や恋愛を紹介(=媒介=仲介)するマッチングサイトですね。

皆さまもニュース等でご存知の「ベビーシッター紹介サイト」も胡散臭いなあ~と思っていたら、ついに預けられていた2歳の幼児が不審死する事件が発生してしまいました!

薬物売買や代理殺人を募集する「闇サイト」なら誰でも胡散臭いと感じますが、「闇サイト」の「ベビーシッター版」の登場とは、意外な落とし穴でしたね!

容疑者は物袋勇治(もって・ゆうじ)なる人物。

いかにも信頼できそうなサイトを運営していて、きょう3月19日現在、アクセスできます。
下のサイトです。



物袋容疑者が運営していたサイト


平成26年3月20更新


物袋容疑者が運営していた上記サイトは、3月20日、アクセス不能になりました。
代わりに、ユーチューブの動画をはっておきます。





2014年3月12日水曜日

ザイン・ゾルレンと意思表示の構造

(1)前提


わが国の民法は、
 ・ ザイン(sein)   … 存在する
 ・ ゾルレン(sollen)… 理想
の両者をうまくバランスさせながら出来ています。

ザイン(存在)の立場から、意思表示の構造を見てみると、
 ・ 意思表示が「存在する」もの    → 有効
 ・ 意思表示が「存在しない」もの → 無効
となります。

でも、ゾルレン(理想)を加味してバランスさせると、上記の有効・無効の振り分け通りには行きません。

以上を前提に、宅建試験で出題されることが多い、
 ・ 虚偽表示
 ・ 心裡留保
 ・ 錯誤
へと話を進めて行きます。



ザインゾルレンは、ドイツの哲学者カント(1724年-1804年)が提唱したもので、わが国の民法に影響を与えたばかりか、現在でも、世界中の知識人が「何かを思考する」ときに影響されている哲学ないしは法哲学上の概念です。

(2)虚偽表示


(イ)

民法94条(虚偽表示)の条文は、次のようになっています。

第94条 
【1項】
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
【2項】 
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

(ロ)

まず【1項】ですが、「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする」という記述は、ザイン(存在)の立場からの条文です。
虚偽の意思表示は、意思表示としては「存在しない」ので無効です。


意思表示には、相手方からみて、表示(甲土地を売る)に対応する意思(甲土地を売るつもり)が「存在する」事が必要です。
虚偽表示では、意思(甲土地を売るつもり)が虚偽(=ウソ)なので、表示に対応する意思が「存在しない」のです。

(ハ)

次に【2項】ですが、「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」という記述は、ゾルレン(理想)を加味して【1項】とバランスさせたものです。

本来ならば、虚偽表示は【1項】で無効になっていて、無から有は生じないので、善意の第三者は、虚偽表示した者に対抗できない(勝てない)はずです。

でもそれでは、善意の第三者が、あまりにも気の毒です。

そこで、ゾルレン(理想)の出番となります。

虚偽表示した者は、存在しない意思(虚偽=ウソ)を「作り出した張本人」なのに、その本人が責任を負わないで、虚偽表示を知らなかった第三者(善意の第三者)がアオリを食うような怖い取引社会では、人類の理想など吹き飛んでしまいます。

以上のようなゾルレン(理想)の考え方のもと、【2項】の条文が作られたのです。

(3)心裡留保


(イ)

民法93条(心裡留保)の条文は、次のようになっています。

第93条 
【本文】
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
【ただし書き】
ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

(ロ)

まず【本文】ですが、「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない」という記述は、いきなりゾルレン(理想)の出番です。

上の、「その効力を妨げられない」というのは、有効という意味。
だから心裡留保(表意者がその真意ではないことを知ってした意思表示(例:冗談)は、原則有効になります。

意思表示には、相手方からみて、表示(甲土地を売る)に対応する意思(甲土地を売るつもり)が「存在する」事が必要です。
心裡留保では、意思(甲土地を売るつもり)が虚偽(例:冗談)なので、表示に対応する意思が「存在しない」です。

だったら皆さまは、(2)に書いた、(虚偽表示)の第94条【1項】のように、「…虚偽の意思表示は、無効とする」と記述すべきだとは思いませんか?

話が逆になっていますね。
心裡留保の方は、虚偽なのに原則有効なんですから…。

逆になっている理由は、次の通りです。

(虚偽表示)の方は「相手方と通じて(グルになって)」、「存在しない」意思を作り出したんです。だから相手方も当然虚偽を知っているので、「相手方」を保護する必要は全然ないです。

でも(心裡留保)は、心裡留保した人が単独で「存在しない」意思(例:冗談)を作り出しています。相手方と通じて(グルになって)はいませんよね?
という事は、心裡留保した者だけが、存在しない意思を「作り出した張本人」です。

そこで、心裡留保について責任がない「相手方がアオリを食うのを防ぐ!(=所有権等を取得できるように手当てしてやる!)」のが人類の理想だというゾルレンを持ち出して、心裡留保は、原則有効になるという93条【本文】の条文になりました。

(ハ)

次に【ただし書き】ですが、「ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」という記述は、ザイン(存在)の立場からの条文です。

「相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたとき」とは、要するに、心裡留保について「相手方にも責任があるとき」という意味です。
具体的には、相手方が、心裡留保した(例:冗談で言った)人の真意を知っている場合(悪意の場合)とか、真意を知ることが出来たのに過失(不注意)でそれが出来なかった場合を指します。

つまり、【ただし書き】の場合は、(2)で書いた、(虚偽表示)の第94条【1項】のように、「…虚偽の意思表示は、無効とする」と同じような状況が生じたのです。

だから本来、虚偽の(例:冗談で言った)意思表示は、意思表示としては「存在しない」ので、【ただし書き】の場合は、第94条【1項】と同じく無効にしたのです。

(4)錯誤


(イ)

民法95条(錯誤)の条文は、次のようになっています。

第95条 
【本文】
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
【ただし書き】
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

(ロ)

まず【本文】ですが、「法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」という記述は、ザイン(存在)の立場からの条文です。
錯誤があったときの意思表示は、意思表示としては「存在しない」ので無効です。


意思表示には、相手方からみて、表示(甲土地を売る)に対応する意思(甲土地を売るつもり)が「存在する」事が必要です。
錯誤があったときは、表示(乙土地を売る)に対応する意思が、(甲土地を売るつもり)という勘違いによって生じているので、表示に対応する意思が「存在しない」のです。

(ハ)

次に【ただし書き】ですが、「ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない」という記述は、ゾルレン(理想)を加味して【本文】とバランスさせたものです。

本来ならば、錯誤は【本文】で無効になっていて、無から有は生じないので、錯誤したオッチョコチョイは、どんな場合でも錯誤の無効を主張できるはずです。

しかしそれでは、相手方が、あまりにも迷惑します。
少し注意すれば錯誤を防げたとき(重大な過失があったとき)まで、「私は錯誤したんで無効を主張しま~す!悪りぃね!」が許されたんじゃ、相手方はたまりません。

そこで、ゾルレン(理想)の出番となります。

錯誤した者は、存在しない意思を作り出したことを「少し注意すれば防げたのにそれを怠った」のだから、相手方がアオリを食わないように手当てしてやらないと(本人の無効主張を禁止しないと)、取引社会は怖い事になり、人類の理想など吹き飛んでしまいます。

以上のようなゾルレン(理想)の考え方のもと、【ただし書き】の条文が作られたのです。

(5)まとめ


以上、ザイン(存在する)ゾルレン(理想)から書いてきた意思表示の構造をマトメると、こうなります。

第94条(虚偽表示) 
【1項】
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。⇔ザイン
【2項】 
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。⇔ゾルレン

第93条(心裡留保) 
【本文】
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。⇔ゾルレン
【ただし書き】
ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。⇔ザイン 

第95条(錯誤) 
【本文】
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。⇔ザイン
【ただし書き】
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。⇔ゾルレン

このような切り口で書いてある、宅建参考書を含む法律系資格試験のテキストは、一冊もないです。
それを百も承知で今回の記事を書きました。

それでも書いたのは、せっかく私と出会った皆さまに、世界に通用する「物の考え方の一端」を紹介したかったからです。

冒頭で申し上げたように、ザインゾルレンは、わが国の民法に影響を与えたばかりか、現在でも世界中の知識人が何かを思考するときに影響されている概念なのです。

2014年3月10日月曜日

なぜ、詐欺・強迫されても取り消せるだけなの?

(1)わが国は、存在する意思表示を応援する近代国家


わが国は、フランス革命以前の封建国家ではなく「近代国家」!
近代国家は、存在する意思表示を裁判制度などで応援する国!

詐欺・強迫されても、意思表示は立派に存在するのです。
騙されたり脅されたりしても、甲土地を売るつもりで甲土地を売ったのだから…。

そういう事情から、詐欺・強迫された意思表示でも無効(チャラ)にすることは出来ず、応援しなければなりません。

もっとも、詐欺・強迫されたので、意思表示には欠陥があります。
詐欺・強迫されなかったら、その意思表示はしなかったからです。

そこで民法は、詐欺・強迫された意思表示でも有効としておいて、後でイヤだと思ったらチャラ(無効)にしてもいいよ! と決めました(民法96条1項)(民法121条も参照)。
後でイヤだと思わなかったら、チャラにしなくても構いません。

こういう民法の考え方を、「取り消せる」と表現するのです。

※ 意思表示
…他人に示された(表示された)、本人の要求・欲求・希望(意思)の事。

(2)「錯誤すれば無効」との違いは?


錯誤した場合は、意思表示が存在しないです。
甲土地を売るつもりで乙土地を売ってしまったのだから…。

※ 御注意

錯誤した場合は、表示(乙土地を売る)に対応する意思(甲土地を売るつもり)が「相手方から見て不存在」という意味で、意思表示が存在しないのです。
詐欺・強迫されても、表示(甲土地を売る)に対応する意思(甲土地を売るつもり)は、立派に存在している事との違いに御注意下さい!
つまり、相手方から見て「表示に対応する意思の無いヤツの行動なんか意思表示と呼べない」というだけの話…。
ここでは、表示した人がオッチョコチョイじゃなかったら良かったのになあ~とか、嘘つきじゃなかったら良かったのになあ~とかの人間評価はしません。そのような理想論は後述のゾルレンが担当します。

とにかく、わが国は存在する意思表示を応援する近代国家なので、存在しないものを応援することなんか出来ません(存在しないものを応援したんじゃ、近代国家が「お化け」を認めるのと同じ!)。

そこで民法は、錯誤すれば無効! と決めました。
条文上は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは無効」と表現しています(民法95条本文)。


(3)「存在する」・「存在しない」が分かれ道


わが国の民法は、民衆が自由・平等を獲得したフランス革命(1789年)の影響を受けています(世界史的には、フランス革命で封建時代が終わりを告げ近代社会になります)。

また、その時代を生きたドイツの哲学者カント(1724年-1804年)の影響も受けています。
カントは、人間が認識できる世界を、ザイン(sein)とゾルレン(sollen)に区別し、
 ・ ザイン(sein)には ……… 存在する
 ・ ゾルレン(sollen)には …  理想
というような意味を与えて思索にふけっていた哲学者です。

カントの考え方を日本の民法に当てはめると、意思表示の解釈は「存在する(ザインである)」・「存在しない(ザインでない)」が分かれ道になります。

だから、わが国の民法は、上の(1)で書いたように、詐欺・強迫された意思表示でも存在するので、一応は有効としておきます。

それに対して、上の(2)で書いたように、錯誤した場合、意思表示は存在しないので、無効になるのです。

(4)ゾルレン(理想)も無視できない


存在する」・「存在しない」だけの法律構造では、安定性には優れていますが、杓子定規になる危険があり「理想」を追求できません。幸福追求などの理想は「人それぞれ」なので、具体的妥当性に欠けるおそれがあります。

そこでカントも、人間が認識できる世界にはゾルレン(理想)も無視できないと考えていました。

私は、このゾルレン(理想)を「存在しない意思を作り出した本人にも責任を負わせないと本人の自分勝手になっちゃう場合もあるよね」、 と表現したことがあります。

現在の学者は、「動的安全・取引の安全」という言葉で、このゾルレンを表現します。

わが国の民法は、
 ・ ザイン …  存在する
 ・ ゾルレン…理想
の両者をうまくバランスさせながら出来ているのです。

でも両者のバランスが、その時代と共に微妙に変化してきています。
しかもこのバランス点、皆さまが現在お持ちのナマの常識と一致するとは限りません。
ゾルレンが理想を指す以上、理想は「人それぞれ」だからです。

今回は、宅建の参考書には書いてない哲学の話をまじえたので、やさしく書いたつもりですが、いかがでしたか?

※ 関連記事

意思表示

民法上無効になる理由


2014年3月9日日曜日

民法に「無効」が出てくる条文はいくつあるか?

民法は1044条まである膨大な法律ですが、「無効」という言葉が出てくる条文はいくつあると思いますか?

答は15個です。

その15が「無効」になる理由を、突きつめれば、
 イ 正常な判断能力の無い者の行為を、近代国家は応援しない
 ロ 違法行為を、近代国家は応援しない
 ハ 存在しない意思を、近代国家は応援しない
の、どれかに当たります。
物は考えよう…。民法なんて簡単なモンじゃ!(笑)
詳しくは 民法上無効になる理由 をご覧下さい。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「無効」が出てくる15の条文すべて
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

==================
民法 第一編 総則(第1条~第174条の2)
==================

◆第90条 
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

◆第93条 
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

◆第94条 
1項
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。

◆第95条 
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

◆第119条 
無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

◆第121条 
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

◆第131条 
1項
条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
2項 
条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。

◆第132条 
不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。

◆第133条 
1項
不能の停止条件を付した法律行為は、無効とする。

◆第134条 
停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。

==================
民法 第二編 物権(第175条~第398条の22)
 無し
==================
民法 第三編 債権(第399条~第724条)
==================

◆第433条 
連帯債務者の一人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は、その効力を妨げられない。

◆第470条 
指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。

==================
民法 第四編 親族(第725条~第881条)
==================

◆第742条 
婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
1.人違その他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
2.当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第739条第2項に定める条件を欠くだけであるときは、婚姻は、そのために、その効力を妨げられない。 

◆第802条 
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
1.人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
2.当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第799条において準用する第739条第2項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。

==================
民法 第5編 相続(第882条~第1044条)
==================

◆第966条 
1項
被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。


2014年3月8日土曜日

民法上無効になる理由

(1)イントロ


法律系資格試験を勉強する際、押えておくべき重要な知識に「~の場合は無効」というのが有ります。

例えば、
1.意思能力を欠く状態でなされた意思表示は、無効である(法律の条文ナシ)
2.公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする(民法90条)。
3.相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする(民法94条1項)。
4.意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする(民法95条本文)。
などです。

以上の4つは、宅建参考書を含むどんな法律系資格試験のテキストにも書いてあるはずです。

でも、司法書士・社会保険労務士・行政書士の先生に訊(き)いても、その理由を素人にも分かるように簡潔に説明できる方は、残念ながらごく少数…。
上記資格試験には、民法の論文式試験が出題されないのが、その理由と考えられます。

そこで今回は、民法の論文試験に限ってですが高得点の経験がある元司法試験受験生の迷物講師が、上の1.4.の理由を順番に説明してみようと思います。

(2)意思能力を欠く状態でなされた意思表示は「無効」(法律の条文ナシ)


こういう状態の典型例は、泥酔者の言動です。
例えば私が、ベロンベロンに酔っ払って「俺の大型二輪、お前にタダでやるよ!」と言っても、そんなの無効(泥酔状態での私の言動はチャラ)です。

なぜか?

わが国が、フランス革命以前の封建国家ではなく「近代国家だから」です。

近代国家は、意思表示を裁判制度などで応援する国です。
そして「意思表示」とは、他人に示された(表示された)、本人の要求・欲求・希望(意思)を指します。

この意思表示は、当然の事ながら、「正常な判断能力」の元でのそれが大前提になります。

ベロンベロンに酔っ払ったオヤジの言動でも「一度約束した(=契約した)事は守れ!コノヤロー!」というのでは、近代国家とは言えないからです。
「武士に二言(にごん)無し」は、封建時代の言葉!

だから、意思能力(正常な判断能力)を欠く状態でなされた意思表示は「無効」なのです。

なお、わが国の法律に条文がないのは、以上私が説明したような事が、明治以来のエライ人には当然! とされていたためです。



ドイツ民法やスイス民法では、「意思能力を欠く状態でなされた意思表示は無効」という条文がちゃんと有ります。それはゲルマン民族が几帳面だからでしょう!

(3)公序良俗違反を目的とする法律行為は「無効」(民法90条)


民法90条の条文は「公(おおやけ)の秩序又は善良の風俗に反する事項」と書いてありますが、長ったらしいので「公序良俗(こうじょ・りょうぞく)違反」として説明するのが一般です。私もそれに従います。

「公序良俗違反」って、要は違法行為の事。

例えば私が、「迷物ファン限定で、覚せい剤を1グラム10円で売ります!」と言っても、そんなの無効(覚せい剤取締法に違反する私の違法な言動はチャラ)です。
約束を破った私を迷物ファンの皆さまが訴えても、民法上は皆さまの敗訴。
1グラム10円と私が表示した覚せい剤を、自分の物とする事はできません。

なぜか?

わが国が、フランス革命以前の封建国家ではなく「近代国家だから」です。

近代国家は、意思表示を裁判制度などで応援する国です。
そして「意思表示」とは、他人に示された(表示された)、本人の要求・欲求・希望(意思)を指します。

この意思表示は、当然の事ながら、「適法な」それが大前提になります。

覚せい剤取引のような違法行為でも「一度約束した(=契約した)事は守れ!コノヤロー!」というのでは、近代国家とは言えないからです。
「武士に二言(にごん)無し」は、封建時代の言葉!

だから、公序良俗違反を目的とする法律行為は「無効」なのです。

(4)相手方と通じてした虚偽の意思表示は「無効」(民法94条1項)


「相手方と通じてした虚偽の意思表示」は、短縮すれば虚偽表示の事。

虚偽表示は、脱税者の行動に現れるのが典型かな?
例えば私が、所得税500万円を滞納して宅建倶楽部の事務所を税務署から差し押さえらそうになりました。

そこで身内の弟に「売るつもりも無いのに、宅建倶楽部の事務所を弟に売ったことにして、弟も買うつもりなく買ったことにして名義を弟に移して」も、そんなの無効(当事者のグルの虚偽を前提とする言動はチャラ)です。

なぜか?

わが国が、フランス革命以前の封建国家ではなく「近代国家だから」です。

近代国家は、意思表示を裁判制度などで応援する国です。
そして「意思表示」とは、他人に示された(表示された)、本人の要求・欲求・希望(意思)を指します。

虚偽表示には、他人(弟)に示された、本人(私)の要求・欲求・希望(意思)が存在しません。「宅建倶楽部の事務所を弟に売る」はウソ(虚偽)なんだから、当然です。

いくら近代国家といえども、存在しないものを応援することなんか出来ません(存在しないものを応援したんじゃ、近代国家が「お化け」を認めるのと同じ!)。

だから、相手方と通じてした虚偽の意思表示は「無効」なのです。

(5)意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは「無効」(民法95条本文)


「法律行為の要素に錯誤があった」は、約束(=契約)の重要な部分に勘違いがあったという意味。

例えばオッチョコチョイの私(結構ホント!)が、船橋駅北口の甲土地を売るつもりで、勘違いして、船橋駅南口の乙土地を友人に売ると約束(=契約)しました。

この場合、船橋駅南口の乙土地を友人に売ると約束(=契約)した行為は、無効(勘違いで甲土地と乙土地を取り違えた私の言動はチャラ)です。

なぜか?

わが国が、フランス革命以前の封建国家ではなく「近代国家だから」です。

近代国家は、意思表示を裁判制度などで応援する国です。
そして「意思表示」とは、他人に示された(表示された)、本人の要求・欲求・希望(意思)を指します。

この錯誤には、他人(友人)に示された、本人(私)の要求・欲求・希望(意思)が存在しません。
「船橋駅南口の乙土地を友人に売る」は勘違い(本心=意思は、船橋駅北口の甲土地を友人に売るつもり)なんだから、当然です。

いくら近代国家といえども、存在しないものを応援することなんか出来ません(存在しないものを応援したんじゃ、近代国家が「お化け」を認めるのと同じ!)。

だから、意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは「無効」なのです。

(6)まとめ


以上書いてきた事をマトメると、こうなります。

1.意思能力を欠く状態でなされた意思表示が「無効」なのは、正常な判断能力の無い者の行為を裁判所などが応援したのでは、近代国家とは言えないから…。

2.公序良俗違反を目的とする法律行為が「無効」なのは、違法行為を裁判所などが応援したのでは、近代国家とは言えないから…。

3.相手方と通じてした虚偽の意思表示が「無効」なのは、近代国家といえども、存在しない意思を応援することは出来ない(存在しないものを応援したんじゃ、近代国家が「お化け」を認めるのと同じだ!)から…。

4.意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときに「無効」なのも、存在しない意思を応援することは出来ない(存在しないものを応援したんじゃ、近代国家が「お化け」を認めるのと同じだ!)から…。

(7)原則と例外


(イ)原則


私はここまでを、民法の根っこである「私的自治の原則」「契約自由の原則」に基づいて書いてきました。

つまり、
  正常な判断能力の無い者の行為を、近代国家は応援しない
 違法行為を、近代国家は応援しない
 存在しない意思を、近代国家は応援しない
という意味で、それらは「無効」なのです。

そして、こういう考え方の根っこ(土台)になっているのが「私的自治の原則」「契約自由の原則」という制度です。

なお、近代国家の成立過程にまで遡って知りたい方は、 意思表示 をご覧下さい!

(ロ)例外


ところで、近代国家がだんだん進んでくると、「存在しない意思を、近代国家は応援しない」という上の(イ)の原則を、例外なく貫き通して良いか? という疑問が生じてきました。

なぜならば、私たち近代国家に暮らす者は、無人島に独り漂着したロビンソン・クルーソー(架空の人物)と違い、みんなで共同生活をしているからです。

みんなで共同生活をしている以上、「存在しない意思を、近代国家は応援しない」という原則に例外をもうけ、「存在しない意思を作り出した本人にも責任を負わせないと本人の自分勝手になっちゃう場合もあるよね」、 という例外に近代国家は気づいたのです。

この気づき、明治31年に施行され現在も使われている民法にも取り入れられています。

例えば、民法94条1項は「相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効」と書いてあります。この部分は、(イ)の「存在しない意思を、近代国家は応援しない」という原則です。

でも民法94条2項は「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」となっていて、ここが「存在しない意思を作り出した本人にも責任を負わせないと、本人の自分勝手になっちゃう場合もあるよね!」 という例外部分です。

94条2項のようなのを、専門的には動的安全・取引の安全なんて言いますが、これってあくまで、「私的自治の原則」「契約自由の原則」からは例外なので、注意して下さい。

上の方の(4)に書いた例で言えば、私が、所得税500万円を滞納して宅建倶楽部の事務所を税務署から差し押さえられそうになったので、虚偽の意思表示によって事務所を弟に売ったことにした場合、「当事者の虚偽を前提とする言動はチャラ」だぜ! という私の主張を、どこまでも貫き通すことが許されたら、私の自分勝手になっちゃう場合が有るよね! という事です。

 私 → 弟

間の約束(=契約、この場合は売買契約)が「無効」としても、弟が私を裏切って、第三者Cに宅建倶楽部の事務所を転売しちゃった場合を考えてみて下さい。

 私 → 弟 → C(善意)

この場合、 Cさんが 私 → 弟 間の虚偽の意思表示の「事情を知らないで」弟から買ってしまったとき(Cさんが善意の第三者であったとき)、私 → 弟 間の売買契約の無効がCに対しても適用されると考えることは、いかにも私の自分勝手です。

そこで、「存在しない意思を作り出した本人(私)にも責任を負わせ」、私 → 弟 間の売買契約の無効について、私は善意のCに対抗できない(勝てない = 私はCから事務所を返してもらえず事務所の所有権はCが取得する)、と書いてあるのが民法94条2項なのです。

(8)最後に


宅建試験をはじめとする法律系資格試験では、原則(存在しない意思を、近代国家は応援しない)よりも、例外(存在しない意思を作り出した本人にも責任を負わせないと、本人の自分勝手になっちゃう場合もあるよね!= 動的安全・取引の安全)から良く出題されます。

そのため、宅建の参考書・テキスト・過去問解説は、どうしても例外部分の記述にページ数をさかなければなりません。

こういう傾向は、国民を「お馬鹿さん」にしてしまう元!
そのさらに大元には、「出題者の無能さ」・「支配者からの要請」のどちらか(または両方)が存在すると考えます。

世界に通用する論理は、「まずは原則をしっかり押えその上で例外に進む」ものだからです。これは法律学習の王道でも有ります!

そんな心配を心に秘めながら書いたのが、今回の記事です。

2014年3月6日木曜日

宅建合格に必要な「努力」とは

(1)イントロ


皆さまご存知の発明王エジソン(1847年-1931年)は、「天才は1パーセントのヒラメキと99パーセントの努力!」という名言を残しました。

エジソンが残したのは、「1パーセントのヒラメキがなければ99パーセントの努力は無駄!」という言葉だったという説もありますが、いずれにしても、エジソンが努力の必要性を認めていたのは確かでしょう。

エジソンに限らず、現在でも努力の必要性を認めるのは、世界の趨勢(すうせい)です。

じゃ皆さまに求められる、宅建合格に必要な「努力」とは何でしょうか?
努力の中身が問題になりますね。

(2)相対的なものである


第一に、
宅建合格に必要な「努力」の中身は、「相対的」なものです。

「相対的」というのは、物事が他との比較において、そうである状態の事。

だから宅建合格に必要な「努力」は、他の受験者と比較して、自分が優れている必要があります。
合格率は15パーセント前後なので、自分の努力は、ライバル100人と比較して最低でも15番に入る必要があるという事です。

自分だけの絶対的な(他の受験者との比較を無視した)基準で、「今までの人生で一番努力した!」と思っても、それだけでは宅建合格に必要な「努力」には入れてもらえません。

なぜならば、宅建の合格基準が相対的だからです。

宅建は35点取っても合格できるとは限らず、かと言って33点でも上位15パーセント以内に入れば合格できる試験。つまり15パーセントの席を取るための相対的な競争試験なのです。

(3)人格的なものである


第二として、
宅建合格に必要な「努力」の中身は、「人格的」なものです。

「人格的」というのは、受験者の人柄が努力の質として現れてしまうという事。

例えば、何事につけても「まじめ」・「飽きないでコツコツやる」受験者は、宅建合格に必要な「努力」の中身としては、非常に有利です。

逆に、何事につけても「近道」・「裏道」を探しているような人は、それを探す時間が努力に含まれてしまうロスが生じ、あまり有利とは言えません。

政策的に、最近の問題は「まじめ」・「飽きないでコツコツやる」受験者に有利になるよう作られていると考えて下さい。

典型は、正しいものは「いくつあるか」というような個数問題(数当て問題)や、誤っているものの「組合せはどれか」というような組合せ問題を急激に増やした事です。
平成24年度も平成25年度も、個数問題と組合せ問題を合わせて8問も出題されています(平成23年度以前は0問~3問)。

これらは、すべての肢が判っていないと正解できない問題ばかりです。
単なる四択問題(例:正しいものは「どれか」)なら一肢や二肢が判らなくても消去法で正解できましたが、それが効かないんです。

こういう個数問題や組合せ問題の急増は、何事につけても「まじめ」・「飽きないでコツコツやる」受験者を多く合格させたい、という出題者からのメッセージが込められているとは思いませんか?

「単なる丸暗記」や「語呂合わせ」、「超短期で受かる」等の教材の効き目を薄め、ひいては「裏街道を走りそうな人」をあらかじめ不動産業界からジワジワと締め出してしまおうとする政策にも合致するシステム変更なのです。

(4)オマケ


キリスト教圏・イスラム教圏・仏教圏を問わず、また業種を問わず、今の世界はその人の「人格」を非常に重要視しているようです。

現在私が、結構時間を割いているSEOなんか、相当サイト運営者の人格を見るようにシフトされてきました。

それも、資格試験なんかと違って現在の人格を見られるだけじゃないです。
初めてインターネット上にサイトを立ち上げた「過去まで」(私の場合は1998年まで)見られています。

しかもSEOにおける私の人格は、相対的にグーグル等が監視しています。
私が運営するサイトと同業他社が運営しているサイトとを比較して、その上で私の人格(ユーザーに価値あるページを提供しているか? スパムをやっていないか?)を「過去まで」見られているのです。

その点では、現在の人格さえ高潔ならば「過去が問われない」宅建受験者がうらやましいですよ!

2014年3月5日水曜日

本当は、法律には法則なんて無い

一定の条件を充たせば、必ず一定の結果になる。
これを「法則」といいます。

例えば、平成26年3月5日の何時何分になれば、千葉県船橋市金杉台2丁目の宅建倶楽部がある所(北緯35.736138 東経140.013588)では、必ず太陽が沈みます。

ま、自然法則の一種ですね。

(1)人間社会に法則は無し


文明の発達に伴い、自然の法則はだいぶ解明されて来ました。
しかし残念ながら、21世紀初頭の現在、人間社会を規律する法則は一切解明されていません。

「経済」を考えてみる - バレンタインデーに際して でも書きましたが、

 ・ どんどん消費を拡大させる
      ↓
  ・ みんなが利潤を上げる
      ↓
  ・ 誰も損しない

というのは、経済の法則のように見えますが、違います。

「法則」は、一定の条件を充たせば、必ず一定の結果になる事です。
「どんどん消費を拡大」させても、「誰も損しない」わけじゃなく、損する人が出てくるに違いないので、こんなのは法則じゃないのです。

これは経済に限ったことじゃないです。

人間が作った決まり(経済理論とか法律理論)には、「法則」性を期待すること自体が、21世紀初頭の文明の発達程度では、土台無理です。

なぜならば、決まりを作った人間の「人種」「信条」「性別」「身分」「家柄」、つまりは人生観が「人それぞれ」だからです。

だから、「人間社会に法則は無し」なんですね。
この点では、人生観など元々持ち合わせていない自然には、勝てません。

平成26年3月5日の何時何分になれば、千葉県船橋市金杉台2丁目の宅建倶楽部がある所(北緯35.736138 東経140.013588)では、必ず太陽が沈みます。
いいも悪いもなく、必ずそうなります。
自然には人生観なんて無いんで、絶対にそうなります!

(2)ホントは、法律にも法則なんて無い


こういう文脈で語ると、法律にも「法則」なんか無い事になります。

法律だって人間が作った決まりに過ぎず、法の頂点に位置する憲法だって、「人それぞれ」の人生観でコロっと変わっちゃうから、「一定の条件を充たせば、必ず一定の結果になる」(法則)とは言えないのです。

今の憲法9条を改正して、「一定の条件」(100パーセント戦争にならない条件)を充たしたとしても、必ず一定の結果になる(100パーセント戦争にならない)ことは、有りえません。
こんなの今さら迷物講師ごときに言われなくたって、皆さまが直感的に分かっている通りです。

悲しいかな、法学部の教授だって、法律には法則性が無いことを百も承知で、ご自分の学説を発表されたりしています。

その悲しさを隠すためか、「法律は科学である!」なんて昔私が教わった教授は言っていましたが、この場合の「科学」とは「法則」と同じ意味で使っていましたっけ…。

ま、21世紀初頭の文明の発達程度では、ホントに「法則」(科学)と呼べるのは、物理学・医学などの自然科学しかないです。
その意味では、STAP細胞の作成法を世界で初めて確立したとされる小保方晴子(おぼかた・はるこ)博士(工学)の仕事なんか、超うらやましいですね。

(3)宅建試験の合格法にも、法則なんて無い


しつこいですが「法則」は、一定の条件を充たせば、必ず一定の結果になる事です。
だから、これを宅建合格に置き換えてみて、

・ 「一定の条件」 … 過去問を5,000題解く努力
・ 「一定の結果」 … 平成26年度宅建試験合格

としても、「必ず」合格するわけじゃないです。

これも今さら迷物講師ごときに言われなくたって、皆さまが直感的に分かっている通りです。

(4)だったら、どうすりゃいいのさ!


法則がない事を必然とする人間社会…。

でも昔から頭のいい人はいたもんで、法則の変わりに発明したキャッチ・フレーズが有ります。

それは「必要性」という言葉。

例えば、法律には「法則は無いけれど必要性はある!」と発想し、それをキャッチ・フレーズとして人々に伝える事です。

法律には法則性が無いことを百も承知で、ご自分の学説を発表されたりしている法学部の教授も、その発想の根っこ(土台)をなすのは、「法則は無いけれど必要性はある」という事です。

この発想の仕方は、正統派の宅建講師も同じです。
これを何とか、御自分の受講者に理解して頂きたい、と苦労しています。
私も同じです。

そういう正統派宅建講師は、例えば…
 ・ 宅建業法がある「必要性」は何?
から、講義を始めます。

つまり、何か「必要性」があるから、国会がわざわざ宅建業法という法律を作ったんだよ! と教えるしかないんです。
そもそも、法律には自然科学のような法則が無いので、「必要性」(例:宅建業法がある「必要性」は何?)から始めないと、「人それぞれ」の人生観を持った受講者全員に通用する客観性を保てないんです。
ここがいい加減だと、受講料に見合った合格率を出せず、ひいては廃業せざるを得なくなっちゃうんですね。

ちなみに私の有料講座の場合は、
 ・ 宅建業法がある「必要性」は何?
に対しては、
 ・ 「お客さんを保護するために宅建業法があるんだよ!」から講義を始めます。

ここの所は、無料でも読めるコンテンツを公開しています。
宅建業法の全体構造 | ネットスクール(宅建業法) をクリックすれば読めます。 


(5)実は、当たり前の事だった!


小さい頃から学校で習ってきた、人間社会に関する事。
実は、自然科学を含めて全部が、「必要性」という言葉に集約できます。

「必要性」があるから衣・食・住があるんです。
もっと具体的に言えば、何か必要性があるから…
 ・ 衣料品を買う
 ・ 食料品を買う
 ・ 住居に住む
んですよね?
この場合の「必要性」とは生命や身体に直接かかわってくることが、ほとんどでしょう。

 ・ おしゃれにお金を使う
 ・ 生理的に合う異性を直接探す
 ・ 出会い系サイトに登録する
なんていうのは、結婚したいという「必要性」、場合によっては自分の子孫を残したいという「必要性」が、そうさせるのかも知れません。

じゃ皆さまにとって、宅建試験に合格する「必要性」って何でしょうか?
イロイロあるでしょう。

その講座に申し込む「必要性」って何でしょうか?
これもイロイロあるでしょう。
よく考えたら、「必要性」なんかないのに(例:独学でも大丈夫なのに)、申し込もうとしている人もいるかも知れませんね。

(6)邂逅


人生は邂逅(かいこう・「出会い」)です!

せっかく私と出会って下さった皆さまなので、このブログでは、「必要性」をキャッチ・フレーズとして、実際の試験問題ができるようになるもっと具体的な記事を書いて行く予定です。

私の講座の受講者はもちろん、そうでない方も、引き続きご愛読下さればと思います!

2014年3月4日火曜日

二つのユーキャン

今回は、合格に全然関係ない与太話…。

2000年(平成12年)暮まで、通信教育で有名な U-CAN は日本通信教育連盟 という名前でした。

同社が U-CAN になった時、どうせなら YOU-CAN にすれば良かったのにと思ったものです。

だって U-CAN じゃ 「ユーターン出来る」(不合格)を連想しちゃうでしょ?
YOU-CAN にすれば 「あなたは出来る」(合格)でゲンカツギにもなります。

それで、事情を知っていそうな広告代理店のヤツ(身内)に訊いた事があります。

彼いわく…。
「you can は既に資生堂がシャンプーの名前に使っていたからじゃないかな? you can の商標は俺が名付けた!」との事。

現在40歳未満のかたは全然記憶にないでしょうが、1986年(昭和61年)頃、小川知子さん出演で、「さらっと洗ってしっとりさせる。う~ん、前向きなシャンプーですね。」なんていう you  can のテレビCMを資生堂がじゃんじゃん流していたのでした。

古いオヤジの与太話でスンマセン!



証拠の動画 


2014年3月3日月曜日

迷物コンテンツの電子書籍化について

迷物講師の全公開コンテンツを電子書籍にしてみようか?
こんなアイディアが宅建倶楽部にはあります。

きっかけは、去年の7月に こちらの記事 をみたスタッフからの進言でした。
「電子書籍市場は順調に拡大していてとても将来性がある!」という内容です。
電子書籍の弱点にも触れていますが、全体的には電子書籍を礼賛する「提灯記事」だと思いました。

でも私が間違っていることもあるので、実験だけは始めました。
その 実験電子書籍(宅建倶楽部作)がこちら です。

そんな矢先、今日(3/3)ヤフーのニュースで配信されていた 電子書店サービスが終了したら、買った本は読めなくなるの? という記事には、ナルホドなと思いました。
この記事に書いてあるように、「最近電子書店終了というニュースが相次いでいる」のは事実です。

そんなワケで宅建倶楽部の実験、いつまで続けるか、まだ迷い続けています。

もし本格的にやると決めたら、100円とか200円なんてケチなこと言わずに、公開済みのコンテンツも新たに公開予定のコンテンツも、全部タダにしますけどね…。

※ 蛇足

ビジネス書やネット情報はヤブ医者と同じ…。
セカンド・オピニオンやサード・オピニオンを求め、最終的には自分で「とことん考えないと」ビジネス上でも命取りになりかねません!

合格に必要な学習期間、一日の平均勉強時間

(1)合格に必要な学習期間


迷物講師の考えでは、合格に必要な宅建試験の学習期間は「人それぞれ」です。

なぜならば、宅建は紙文書の読解力ですべてが決まる試験ですが、この読解力は「人それぞれ」だからです。

「平均(標準)学習期間は6ヶ月です」なんて平気で表示している予備校・スクールが多いですが、信じちゃダメ。ここで「平均(標準)」とは、不合格者を含めたそれですから…。

かと言って私は、宅建受験予定者全員に向けて「もっと早く勉強を始めた方がいいですよ」と言っているんじゃ無いです。誤解しないで下さい。

ホント「人それぞれ」ですからね!
これは私が、商売抜きで発する正直なメッセージです。

3月になり、消費税増税まで1ヶ月を切りました。
そこで資格試験業界に限らず、「増税前に申し込んだ方が断然お得!」的な宣伝が各業界で増えていますが、宅建受験者の皆さまは、自分の読解力等と相談して慎重に決めて下さい。
そもそも、合格者の大多数(8割以上)は独学者で占められているという事実も加味して…。

※ 参考 独学合格の心構え


(2)合格に必要な一日の平均勉強時間


これも、合格に必要な学習期間と同じで、「人それぞれ」で、具体的な事は示せません。

本を読むことに苦痛を感じない人と、感じてしまう人とでは、同じ1時間の中身でも全然違ったものになるからです。

勉強の習慣がない人を突き放してしまったようでスイマセン。

でも全員の皆さまに妥当するアドバイスは有ります。
それは、「勉強には加速度が付く!」という事!

ただし、勉強に加速度をつけるには二つの条件を充たすことが必須です。

その一つは、「問題が解けるようになったと実感できること!」。
抽象的な理屈をいくら覚えても、それが実際の問題に使えなければ、どんな人だってイヤ気がさしてくるでしょ?
逆に、知識が少なくても、それで問題が解けるとなったら、誰でも嬉しくなります。

勉強に加速度をつける二つ目の条件は、「ひとつのことをやり続けること!」。
そうすると、ある時点(人によって長短はあります)から「ふうっと違う世界」に入って行けます。
一度そのような世界に入っていくと、抜け出すのがもったいなくなります。
われわれは、面白いゲームに熱中していてやめられなくなる事がありますが、それと同じ心境です。
その点では、いろいろな教材に浮気するのは、あまりオススメできません。
お金に余裕がある受験者ほど陥りやすい盲点です。