2014年3月10日月曜日

なぜ、詐欺・強迫されても取り消せるだけなの?

(1)わが国は、存在する意思表示を応援する近代国家


わが国は、フランス革命以前の封建国家ではなく「近代国家」!
近代国家は、存在する意思表示を裁判制度などで応援する国!

詐欺・強迫されても、意思表示は立派に存在するのです。
騙されたり脅されたりしても、甲土地を売るつもりで甲土地を売ったのだから…。

そういう事情から、詐欺・強迫された意思表示でも無効(チャラ)にすることは出来ず、応援しなければなりません。

もっとも、詐欺・強迫されたので、意思表示には欠陥があります。
詐欺・強迫されなかったら、その意思表示はしなかったからです。

そこで民法は、詐欺・強迫された意思表示でも有効としておいて、後でイヤだと思ったらチャラ(無効)にしてもいいよ! と決めました(民法96条1項)(民法121条も参照)。
後でイヤだと思わなかったら、チャラにしなくても構いません。

こういう民法の考え方を、「取り消せる」と表現するのです。

※ 意思表示
…他人に示された(表示された)、本人の要求・欲求・希望(意思)の事。

(2)「錯誤すれば無効」との違いは?


錯誤した場合は、意思表示が存在しないです。
甲土地を売るつもりで乙土地を売ってしまったのだから…。

※ 御注意

錯誤した場合は、表示(乙土地を売る)に対応する意思(甲土地を売るつもり)が「相手方から見て不存在」という意味で、意思表示が存在しないのです。
詐欺・強迫されても、表示(甲土地を売る)に対応する意思(甲土地を売るつもり)は、立派に存在している事との違いに御注意下さい!
つまり、相手方から見て「表示に対応する意思の無いヤツの行動なんか意思表示と呼べない」というだけの話…。
ここでは、表示した人がオッチョコチョイじゃなかったら良かったのになあ~とか、嘘つきじゃなかったら良かったのになあ~とかの人間評価はしません。そのような理想論は後述のゾルレンが担当します。

とにかく、わが国は存在する意思表示を応援する近代国家なので、存在しないものを応援することなんか出来ません(存在しないものを応援したんじゃ、近代国家が「お化け」を認めるのと同じ!)。

そこで民法は、錯誤すれば無効! と決めました。
条文上は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは無効」と表現しています(民法95条本文)。


(3)「存在する」・「存在しない」が分かれ道


わが国の民法は、民衆が自由・平等を獲得したフランス革命(1789年)の影響を受けています(世界史的には、フランス革命で封建時代が終わりを告げ近代社会になります)。

また、その時代を生きたドイツの哲学者カント(1724年-1804年)の影響も受けています。
カントは、人間が認識できる世界を、ザイン(sein)とゾルレン(sollen)に区別し、
 ・ ザイン(sein)には ……… 存在する
 ・ ゾルレン(sollen)には …  理想
というような意味を与えて思索にふけっていた哲学者です。

カントの考え方を日本の民法に当てはめると、意思表示の解釈は「存在する(ザインである)」・「存在しない(ザインでない)」が分かれ道になります。

だから、わが国の民法は、上の(1)で書いたように、詐欺・強迫された意思表示でも存在するので、一応は有効としておきます。

それに対して、上の(2)で書いたように、錯誤した場合、意思表示は存在しないので、無効になるのです。

(4)ゾルレン(理想)も無視できない


存在する」・「存在しない」だけの法律構造では、安定性には優れていますが、杓子定規になる危険があり「理想」を追求できません。幸福追求などの理想は「人それぞれ」なので、具体的妥当性に欠けるおそれがあります。

そこでカントも、人間が認識できる世界にはゾルレン(理想)も無視できないと考えていました。

私は、このゾルレン(理想)を「存在しない意思を作り出した本人にも責任を負わせないと本人の自分勝手になっちゃう場合もあるよね」、 と表現したことがあります。

現在の学者は、「動的安全・取引の安全」という言葉で、このゾルレンを表現します。

わが国の民法は、
 ・ ザイン …  存在する
 ・ ゾルレン…理想
の両者をうまくバランスさせながら出来ているのです。

でも両者のバランスが、その時代と共に微妙に変化してきています。
しかもこのバランス点、皆さまが現在お持ちのナマの常識と一致するとは限りません。
ゾルレンが理想を指す以上、理想は「人それぞれ」だからです。

今回は、宅建の参考書には書いてない哲学の話をまじえたので、やさしく書いたつもりですが、いかがでしたか?

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