今回はその続編という事で、休憩時間に気楽に読んで頂ければと思います。
(1)民法の定め
民法108条は、「同一の法律行為については、…(中略)…当事者双方の代理人となることはできない。ただし、…(中略)…本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない」と書いてあります。これが民法の双方代理の定めです。
民法108条の条文
だから、わが国での双方代理は、
(原則)…禁止
(例外)…本人があらかじめ許諾してればOK
となります。
(2)不動産業の不思議
迷物不動産(架空)をはじめとする不動産業者は、ほぼ100パーセント、「本人があらかじめ許諾してれば双方代理もOK」、という例外規定で商売してます。
この図の
・ 本人(売主) … 築30年の甲マンション303号室の売主 = 鈴木さん
・ 本人(買主) … 築30年の甲マンション303号室の買主 = 田中さん
だと思って下さい。
この場合、わが国ではほぼ100パーセント、迷物不動産なら迷物不動産という同じ不動産業者が、鈴木さん(303号室の売主)と田中さん(303号室の買主)の双方から許諾を受けて、代理人となって代理契約を実行しています。
本人双方から許諾を受けているんだから、宅建試験の解答としては、この双方代理は合法です。
ところで迷物不動産は、日本中にいる宅地建物の売主や、日本中にいる宅地建物の買主と、それぞれの本人から許諾を受けて双方代理することが許されています。これは迷物不動産以外の不動産業者も知事免許・大臣免許を問わず全部同じであり、それが現在の日本の法律です。
ということは、迷物不動産のサジ加減次第で、鈴木さん(303号室の売主)に有利な代理を行えるし、田中さん(303号室の買主)に不利な代理を行うことも出来る、ということになってしまうのです。
例えば、鈴木さん(303号室の売主)が迷物不動産と長い付き合いのあるお得意のオーナーさんなら、そのマンションの床下スラブに埋設されている配水管の水漏れを田中さん(303号室の買主)に隠して売ってしまったとしても、現在の区分所有法をはじめマンション関連の法令・判例では、迷物不動産の鈴木さん(303号室の売主)に対する有利なサジ加減を糾弾することは、まず不可能です。
まさに、わが国の法令が合法としている「本人があらかじめ許諾してれば双方代理もOK」という民法108条の例外規定では、このような「不動産業者のサジ加減次第」を防げていないのです。
アメリカではそんな事は普通ないです。
・ 本人(売主) … 築30年の甲マンション303号室の売主 = ブラウンさん
・ 本人(買主) … 築30年の甲マンション303号室の買主 = オスカーさん
を、どこかの不動産業者が双方代理することは、原則違法とされています。
アメリカでは「不動産業者のサジ加減次第を防止するシステム」が、何十年も前から確立しています。
売主(ブラウン)さんの代理人はA不動産、買主(オスカー)さんの代理人はB不動産、というようにちゃんと分離されているのです。
TPPが本格的にやってくると、おそらくアメリカ標準に直すことを余儀なくされ、不動産業者の「双方代理を利用した商売」の時代は終焉を迎えるかもしれないことを、これから不動産業界で働こうとしているかたは知っておくべきでしょう。「双方媒介」についても同じです。
(3)余談
昭和40年代に大量建築された古いマンションが建て替え時期を迎えつつある今、マンションの床下スラブに埋設されている配水管の水漏れは、誰が責任を負うか? という事が重大な社会問題になりつつあります。
国交省・管理組合等は「火消し」にやっきになってますが…。
その配水管が専有部分と認定されれば、鈴木さんか田中さん(303号室の売主か買主)が責任を負います。
その配水管が共用部分と認定されれば、他の共有者全員が責任を負います。
最高裁判例も出てますが、この記事は与太話なので、それには触れません。
こんな事、素人ばかりじゃなく、宅建受験者の皆さまも全然分かりませんよね?
アメリカのように、不動産業者が双方代理することが原則違法となれば、売主(ブラウン)さんの代理人であるA不動産も、買主(オスカー)さんの代理人であるB不動産も、受任義務違反を追及されないように、配水管の水漏れの危険性に至るまで綿密に調査すると聞いています。特に古いマンションでは…。